新宿のとあるハンバーガーショップ。

4人の女子大生が、少し遅めの昼食をとるため、カウンターに並んでいた。

「クナ、あとアンタだけなんだけど」

「ん〜・・・、じゃあ、ボスチーズセットで、ポテトの、えーと、コーラで」

少し乱れた日本語で注文を終え、会計を済ませた後、クナたちはテーブルで注文の品がを届くのを待った。

「ボスはねえ、美味いのはいいんだけど、遅いのがねえ・・・。

 あたしゃ安くて早いドグマがいいよ」

クナがそういうと友人の1人が反論する。

「はああ!?あんなもん人が食うもんじゃないでしょ。

 アンタもバーガー好き自称してんならドグマノルドになんか行ってんじゃないわよ」

「あたしはねえ、バーガー好きであってバーガー通じゃないの。

 ハンバーガーなら多少不味くてもおいしくいただけんのよ」

「うっわ、何ソレ!?意味わかんないし

 大体ねえ、ドグマノルドは牛100パーセントなのよ」

「あらいいじゃない、牛肉100パーってことでしょ?」

「そうじゃないのよ!牛なのよ牛!

 頭の先から尻尾の先まで、普通は食べないようなところも、ミンチにすりゃわかんないだろう、ってことで使ってんのよ。

 仕入先だって・・・」

「また始まったよ、涼子のウンチク」

「黙って聞けぃ!

 いい?仕入先も提携農家とかじゃなくて、ネットで安いとこ調べて仕入れてんのよ、わかる?

 つまり、ワケのわかんないトコから仕入れたワケのわかんない牛のワケのわかんない肉を食わされてんのよアンタらは!!」

早口で言いたいことを言い切り、少し気分の良さそうな涼子に対して、クナは冷たく反撃する。

「死にゃしなんでしょ?ならいいんじゃない」

「グッ・・・・・、千絵、アンタはどうなの!?」

ここで涼子は矛先を別の友人に求める。

「アタシ、ファイナルキッチン好きぃ〜」

「全然聞いてないよこのコは・・・」

千絵に笑顔で的外れなことを言われ、涼子はがっくり肩を落とす。

ある意味、クナの反撃よりもダメージは大きい。

「杏子さ〜ん、このバカどもに何とか言ってやってくださいよ〜」

結局、残る1人に援護を求めた。

「まあ、涼子んトコは実家が料理屋だから、食にこだわるのはわからないでもないんだけどね」

「で、杏子は何派?」

いつのまに派閥争いに発展したのか、クナが杏子に問う。

「そりゃ、美味いのは断然ボスでしょう」

「でも高いよ?遅いし」

「高いって言っても、セットで頼んだらドグマとそんなに変わんないでしょう?

 それで美味いのが食べられるんだったら、多少の待ち時間は気にならないわね」

「ん〜、そういわれればそうね・・・」

「さ、さすが姐さん、わかってらっしゃる!」

「でも、アンタが頼んだ、アボカドとかが入ったワケのわかんないヤツは絶対ヤだけど」

「なんで〜!?美味いのよ、あれ」

「いくら美味くても単品で800円超えるようなバーガーはいらないわ」

その時、クナが不意に携帯電話を取り出す。

「あれぇ〜、クナちゃんメールぅ?」

千絵の言葉に苦笑で応えたクナは、携帯電話の液晶画面をみて、ため息をつく。

「アンタ、また何か用事?」

「ええ、そうみたいね」

涼子の問いに短く答えて、クナは席を立った。

「とりあえず5分ぐらいで戻ってくるわ」

席を離れたクナは、カウンターに立ち寄り

「すいません、さっき頼んだボスチーズのセットですけど、やっぱ持ち帰りにしといてください」

そう言った後、店を出た。



現在、日本には大きく分けて3種類のセキュリティ回線が存在する。

セキュリティ回線とは、盗聴やハッキングを防ぐための回線である、ということが、その名前から容易に想像できるだろう。

まず1つめは政府高官及び自衛隊将校などが使う行政用の回線。

次に、銀行関係者が使う金融用の回線。

ちなみに、政府関係者であっても、財務省と大蔵省に限っては、金融用の回線を使うことが出来る。

そして、警察及び検察、裁判所関係者が使う、司法用の回線。

それぞれの回線は、互いに干渉することがなく、もちろん一般の回線とは孤立した状態にあり、

さらにその存在をほとんど知られていないので、盗聴やハッキングをされる可能性は限りなく低い。

SEP01は、司法用セキュリティ回線内に、さらに極秘に設置された専用回線を使用しており、

その存在は、司法関係者はおろか、組織の上層部にすら知られていない。

セキュリティ回線に関しては、携帯電話や無線通信においても有効であり、

仮に通信を傍受できたとしても、専用の端末でなければ、受信したものが音声であれデータであれ、単なるノイズでしかない。


店を出た後、クナは再び携帯電話を取り出し、画面を見た。



『↓→00』



SEP01において、本部からエージェント、またはエージェント同士の連絡は、通常このような簡単な暗号メールによって行われる。

任務中などで連絡が取れない場合を想定し、エージェントを電話などで呼び出すことはない。

受信可能な状態になった時点で、即座に連絡がつくよう、エージェントに対する連絡は必ずメールによって行われる。

ちなみにこの暗号メールは、矢印を中心に構成されるため、通称『矢文(やぶみ)』と呼ばれる。

矢文は、1人のエージェントに送られるもので、複数のエージェントに対して同時に連絡が行われた場合、

本文の頭に『〜』が追加される

それは矢文とは別に『狼煙(のろし)』と呼ばれている。



この日、クナに送られてきたのは矢文の方で、内容は

『↓(至急)→(連絡)00(本部)』

つまり

「至急本部へ連絡されたし」

ということになる。

クナは、指示通り携帯電話から本部に電話をかけた。

『こちらSEPヒソカ』

「クナですけど」

『端末は持ってる?』

「ええ」

そう応えると、クナは腰に巻いたヒップバッグから携帯電話より二回りほど大きいPDA

(パーソナル・データ・アシスタント=小型のパソコンみたいなもの)を取り出すと、何やら操作し始めた。

『受信状態にして』

「OKです」

『・・・届いた?』

「ええ、来ました」

『じゃ、見たら連絡ちょうだい』

そこで電話は切れた。



SEP01のエージェントは、基本的に2台の通信機器を持っている。

1つは携帯電話、もう1つが、通称『端末』と呼ばれるPDAだ。

この端末、並みのパソコンより性能がよく、通信には専用回線を使っているため、

回線速度はそこらへんのブロードバンド回線より速い。

通常、事件のデータなどはこのような形で端末に送られてくる。

他にも使い方はあるのだが、それは追って紹介するとしよう。



送られてきた事件のデータにさっと目を通すと、クナは少し表情を曇らせた。

そして再び本部に電話をかける。

『こちらSEPヒソカ』

「クナです」

『で、どう?』

「どう?って、これ誰かのサポートですよねえ?」

『いいえ、あなた1人よ』

「・・・冗談でしょう?あたし妖怪専門なんですけど」

『しょうがないでしょう、他にいないんだから』

「誰かのサポートで式神をガンガン倒すんなら喜んでやりますけど、術者押さえるとか書いてあるじゃないですか」

『ええ、お願いね』

「言葉通じる相手はヤなんですよぅ、面倒だから」

『わがまま言わないの』

「とにかく、ヤです」

『・・・・・そう、しょうがないわね。

 じゃあ、カスミさんに頼むことにするわ』

「最初っからそうしてくださいよ〜」

『残念ながらカスミさんは任務で2〜3日動けないのよ。

 今なら死人は出てないんだけどねえ・・・2〜3日後はどうかしら』

「・・・・」

『あなたが呑気にハンバーガーなんか食べてる間に、死人が出ちゃうかもしれないわねえ』

「え・・・いや・・・その」

『でもしょうがないわよね、あなたは人の命なんかよりおいしいハンバーガーの方が大事だものねえ』

「いえ、そういうわけじゃあ・・・」

『じゃあね』

そこで電話が切れた。


・・・・ババァ。

クナはもう一度本部に電話をかけた。

『はいSEPヒソカ』

さっきより声のトーンが高いのは気のせいだろうか。

「・・・やります」

『あらクナちゃん、やってくれるの?悪いわね』

「そのかわり、ボスの十段バーガー、おごってもらいますからね!」

『ええ、いいわよ、十段でも二十段でも

 なんならアボカドも付けてあげるわよ』

「いいです、アボカドは!」

そこでクナは電話を切った。



店内のテーブルに戻ると、ちょうど注文の品が運ばれて来たところだった。

「これ、アンタのでしょ」

涼子は持ち帰り用の袋に入れられたボスチーズのセットをクナに差し出す。

「ありがと」

「何、仕事?」

「ええ、苦学生は大変なのよ」

「まあ、何やってるかは聞かないけどさ、体には気をつけなよ」

涼子の言葉にクナは苦笑で応える。

「よろしい、何かとがんばってる君に、私のボスチキンをあげよう」

そう言って、杏子は紙袋に入ったフライドチキンをクナに手渡した。

「オニオンリング一個あげる〜」

千絵はオニオンリングをそのままクナに渡し、クナは少し困ったようにそれを受け取った。

「ありがとう、2人とも」

「よしよし、じゃあわたしはアボカドを一切れあげようじゃないか」

「それは結構」

「ダメ、受け取りなさい」

涼子は断ろうとしたクナの口に無理やりアボカドを押し込む。

意外と美味しかったので、クナは少し驚いた。

「じゃ、行ってくるね」

クナは席を離れた直後、オニオンリングを口に放り込み、店を出ながらボスチキンの紙袋を開けた。



駅に着くまでにオニオンリングとボスチキンを食べ終わったクナは、残りを電車の中で食べることにして駅に入り、

ゴミ箱にチキンの骨を捨てると、券売機で原宿まで行ける切符を買う。

改札を通り抜けたクナは、氷が解けて少し薄くなったコーラを飲みながら、アボカドもつけてもらおうと決心した。